弾性体の力学

平成18年5月10日 平野貴仁

力を加えると歪みが生じ、力を取り去ると歪みが無くなる性質を弾性といい、弾性を持つ物体を弾性体という。

1. 歪みテンソル

弾性体の変位は、並進相対変位に分けられる。並進については比較的自明であるから、ここでは相対変位について考察してみる。

相対座標 ( x1 , x2 , x3 ) の点が、座標 ( x1 + s1 , x2 + s2 , x3 + s3 ) に微小変位したとするとき、各微小変位は、

s1 = s1 x1 x1 + s1 x2 x2 + s1 x3 x3 s2 = s2 x1 x1 + s2 x2 x2 + s2 x3 x3 s3 = s3 x1 x1 + s3 x2 x2 + s3 x3 x3

である。すなわち、

D = ( s1 x1 s1 x2 s1 x3 s2 x1 s2 x2 s2 x3 s3 x1 s3 x2 s3 x3 )

とおくと、

( s1 s2 s3 ) = D ( x1 x2 x3 )

である。 D 変位テンソルといい、次のように対称成分と非対称成分に分解できる。

D = S + G = 12 ( s1 x1 + s1 x1 s1 x2 + s2 x1 s1 x3 + s3 x1 s2 x1 + s1 x2 s2 x2 + s2 x2 s2 x3 + s3 x2 s3 x1 + s1 x3 s3 x2 + s2 x3 s3 x3 + s3 x3 ) + 12 ( s1 x1 - s1 x1 s1 x2 - s2 x1 s1 x3 - s3 x1 s2 x1 - s1 x2 s2 x2 - s2 x2 s2 x3 - s3 x2 s3 x1 - s1 x3 s3 x2 - s2 x3 s3 x3 - s3 x3 )

S 歪みテンソルといい、対角成分は体積変化に対応し、非対角成分は純変形に対応している。また、 G の対角成分はゼロであり、非対角成分は回転に対応している。

x 1 x 2 ds 1 ds 2 純変形 + x 1 x 2 ds 1 ds 2 回転 = x 1 x 2 ds 2 摺り

2. 応力テンソル

弾性体のある面に対して、単位面積当たりに働く力を応力という。面 S に対して働く力は、応力 τ の面積分 S τ S で表される。応力は、ベクトルを掛けてベクトルになるものであることから分かるように、9つの成分を持つ行列(テンソル)である。

電磁気学で習ったガウスの定理を適用すると、弾性体の部分 V に対して働く力は、 V div τ V となる。つまり、 V j=1,2,3 τij xi V である。よって、単位体積当たりの質量を ρ 、応力以外の単位体積当たりの力の i ( i = 1 , 2 , 3 ) 成分を fi とすると、弾性体の微小部分に対して運動方程式が立てられて、

ρ 2 si t2 = j=1,2,3 τij xj + fi ( i = 1 , 2 , 3 )

となる。

3. 応力テンソルと歪みテンソルの関係

応力テンソル τij と歪みテンソル εkl には、応力がある程度を超えない範囲では、次のような比例関係が成り立つ。

τij = k=1,2,3 l=1,2,3 c ijkl εkl

フックの法則である。 c ijkl を、弾性スティフネス(elastic stiffness)といい、弾性体固有の定数である。式を1次元に落とすと、ばねにおける、伸び(縮み)と張力(圧力)が比例関係になっているという知識と合致する。

弾性スティフネスには、81の成分があるが、 τij = τji かつ εkl = εlk であり、また、ひずみエネルギー密度関数の存在から、 c ijkl = c klij が導かれるため、独立な成分は21である。さらに、実際には、対称性から、独立な成分はさらに少なくなる場合が多く、結晶構造を持たない等方弾性体では、独立な成分は等方と異方の2つしかない。

なお、弾性スティフネスの逆テンソルを弾性コンプライアンス(elastic compliance)という。

さて、応力テンソルと歪みテンソルの関係を用いて、弾性体の微小部分に対する運動方程式を変形すると、

ρ 2 si t2 = j=1,2,3 k=1,2,3 l=1,2,3 c ijkl εkl xj + fi ( i = 1 , 2 , 3 )

となり、

ρ 2 si t2 = 12 j=1,2,3 k=1,2,3 l=1,2,3 c ijkl ( 2 sk xj xl + 2 sl xj xk ) + fi ( i = 1 , 2 , 3 )

となる。

参考